かおすなれびゅう

恐怖のオタク的レビュー二本立て。何が恐怖って一本が普通に時代小説でもう一本がなぜかエロマンガと言う。

涙堂 琴女癸酉日記 (講談社文庫)

涙堂 琴女癸酉日記 (講談社文庫)

基本的に今まで読んだ筆者の作品は、淡々とした描写の中に優しい雰囲気がほのかにあって、この作品もご多分にもれずそうなんだけど、それと同時に感じたのが「いらだち」でした。

どれだけ近しく親しく大切な人間でも、しょせんは別の生き物。自分の意にそわないことをされて、不愉快な思いをするなんてのはもう日常茶飯事に起こることで、この作品ではそういういらだちがなんかいつもより目立って目に付いたような気がします。

そして、そんないらだちが、相手に届くか届かないかの微妙なところで漂っていて、でもそれをどちらも追求することなく次の日には忘れてる、という描写が、なんか生々しかったです。小津安二郎ほどじゃないけど、何かああいう感じの胃に来るいたたまれなさが。

まあ、それでもなんだかんだで情の話で終わってるのがらしいと言えばそうかもしれません。この「あるべきところに帰ってきた」感というか、人として一番当り前で大事なところに戻ってくるあたりが、僕はやっぱり大好きなのです。

やっぱり書いてるのが主婦ってのが大きいんだろうなあ。この地に足の着いた感というのは、なんかすごく安心できる。地味だけど大好きな作家さんです。


ピンクペッパー - 陸乃家鴨短編集 (マンサンコミックス)

ピンクペッパー - 陸乃家鴨短編集 (マンサンコミックス)

読み切りや短期シリーズなんかを集めた短編集。
マーク付いてないけどバリバリにエロマンガ。成年誌とかだと読み切りは雑誌に掲載されてそれっきりってことも多々あるので、こうやって単行本として出てくれるのは喜ばしいことです。
何でマークつけてないかと言うと、作者いわく「そっちの方が売れるから」らしい……何だそりゃ。
まあオカズにするっていうより読んでにやにや成分補給するような内容ですが。

短編なので全体的にこじんまりとした小粒な話が多いのですが、それでもひとつひとつがお話としてきちんと地味に面白いのが何気にすごいところ。ただでさえ少ないページ数に加えて、エロをきちんと書かんきゃなんないということで、出来ることって本当に限られてくるんですよね。それでこの安定感。キャラの距離感の機微とかがきちんとわかる。すげえ。
少女漫画と少年漫画をどちらもやったことあるベテランだってだけのことはあります。

つーか可愛いんだよなー陸乃家鴨の描く世界って。キャラがとかじゃなくて、何かもう全体の雰囲気が。ほのぼのふわふわ。